北京が日本に仕掛ける「紙の壁」作戦、AI時代の新たな戦場へ


2026年7月8日3:01

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昨年10月に高市早苗首相が就任して以降、中国の対日敵意は急速に高まっている。中国は海警船による日本領海への侵入頻度を増加させただけでなく、日本とフィリピンが両国の経済水域に関する協定で合意した後、台湾東部海域を中国海警船の「執法範囲」に組み込むと一方的に宣言した。

同時に、主要なソーシャルメディア上では、日本政府を攻撃する偽アカウントも増加し続けている。カナダの独立研究機関 Citizen Lab は2024年2月、こうした一連の影響工作を「PAPERWALL」と命名した。同報告は、少なくとも123のウェブサイトが30カ国の地方ニュースメディアを装い、親北京的なコンテンツ、陰謀論、そして北京を批判する人物への人格攻撃を拡散していたと指摘している。

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これらの操作は一見、中国の従来型の対外宣伝工作と大きく変わらないように見える。しかし、笹川平和財団の研究者が指摘するように、そのより深刻な脅威は、AIデータベースや検索エンジンの検索結果を汚染する可能性にある。

私の見方では、これは中国の認知戦における最後にして、最も重要なピースである。すなわち、個別の世論を操作するだけでなく、事実や出来事に対する「最終的な解釈権」そのものを掌握しようとする試みなのだ。

AI時代の到来が北京に新たな好機をもたらす

Citizen Lab の報告によれば、研究者らはデジタル・インフラや Google AdSense ID を分析した結果、これらのウェブサイトが中国・深圳のネットPR会社「深圳市海売雲享伝媒有限公司(Haimai)」と関連している可能性を指摘している。これに先立ち、NHK が安洵公司の流出文書を扱ったドキュメンタリーでも、中国の情報機関が認知戦関連の業務を民間企業に外注している実態が明らかにされた。こうした企業は、ソーシャルメディア上の偽アカウントを運営するだけでなく、読者の判断を混乱させるためのコンテンツファームも構築している。

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しかし、真の脅威はそれにとどまらない可能性がある。一橋大学の鈴木涼平教授は、海外では生成AIがこうした虚偽サイトの内容を学習した結果、ユーザーの質問に対して偏った回答や誤情報を出力する事例が観測されていると指摘している。これは、中国が生成AIの訓練素材を汚染することに成功すれば、特定の事件、国家、あるいは用語に対する人々の認識にまで影響を及ぼし、操作対象となる認知バイアスを無意識のうちに増幅させる可能性があることを意味している。

日本は中国の認知戦によって「悪魔」として定義されつつある

中国の認知戦における中核的著作『制脳権』では、特定の対象のイデオロギーを操作するためには、その対象が持つ「符号」と「定義」に対する認識を変える必要があると論じられている。こうした偽情報やフェイクニュースに満ちたウェブサイトの内容を観察すると、その主な目的が、日本を「トラブルメーカー」として位置づけることにあることが分かる。

福島第一原発の処理水放出、治安悪化、そして近年、中国当局が日本の国防・外交政策に対して繰り返し用いる「軍国主義の復活」という非難に至るまで、これらのナラティブはいずれも、日本を世界平和に脅威をもたらす国家として描き出している。そして米国は、その背後で日本を支援する「共犯者」として位置づけられている。こうした内容は、コンテンツファームや中国当局の公式ナラティブにとどまらず、主要なソーシャルメディア上のショート動画にも頻繁に現れている。

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日台交流協会の調査や近年の民間による対日好感度調査を見る限り、中国以外の国々では、こうした操作の影響はまだ明確には表れていないように見える。しかし、それは中国の認知戦を軽視してよい理由にはならない。中国は現在、大量のデータを用いてアルゴリズムや大規模言語モデルに影響を与えようとしている。

特定の方向性を持つデータが十分に膨大であれば、たとえ誤りだらけであっても、AIが日本に不利な定義や解釈を生成する可能性がある。長期的に見れば、北京はインターネット空間を通じて、日本が本来持っていた肯定的な象徴や意味を徐々に置き換え、それらの象徴に対する解釈権を掌握しようとしているのである。

AI時代の認知戦:北京はいかに民主社会の認識を操作するのか

中国はなぜ、これほどまでに労力を費やしてこうした工作を推進しているのか。その背景には、認めざるを得ない一つの要因がある。すべての人が、事実確認能力や自律的な思考力を十分に備えているわけではない、という現実である。

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多くの人々はAIを使えるようになった後、それを単なるデジタルツールとしてではなく、一種の「電子神棚」のように扱い、自分の想像に合った答えを与えてくれる存在として期待するようになっている。たとえば、GPTを「電子上の恋人」のように扱うユーザーもその一例である。彼らは必ずしも政治に強い関心を持っているわけではなく、必ずしも目立った学歴や経歴を持っているわけでもない。しかし、彼らもまた選挙結果に影響を与える一票を持っている。まさにそこが、中国の認知戦にとって最も狙いやすい対象なのである。

認知戦を通じて他国における「符号」の解釈を変えることは、一国を内側から破壊する第一歩となり得る。旧ソ連の科学者セルゲイ・カラ=ムルザは『意識の操作』の中で、ソ連崩壊の要因の一つは、若者たちの中にあった「偉大なるソ連」という象徴への認識が、米国をはじめとする西側メディアによって置き換えられたことにあると論じた。それは、西側でしばしば強調される経済決定論だけでは説明できない民心の変化だった、という見方である。

同書は中国における「制脳権」研究にも影響を与え、やがて今日われわれがよく知る認知戦へと発展していった。

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では、言論の自由や民主制度を侵害することなく、この問題にどう対処すべきなのか。そこに標準的な答えはないのかもしれない。しかし、少なくとも現時点で進めるべきことはある。日本、米国、台湾の情報機関が協力枠組みを構築し、AI企業が疑わしいデータを識別・排除できる機能を整備することを支援する。そして、必要な範囲でのインターネット監督を通じて、問題のあるドメインが拡散を続けることを防ぐべきである。

残された課題は、民主国家がいかに中国政府と知恵を競い合い、北京が認知戦を通じて他国に混乱を生み出し続けることを阻止できるかにある。


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