
最近、中国黒竜江省の商務代表団が択捉島を訪問したことが明らかになり、その狙いをめぐってさまざまな憶測が広がっている。日本とロシアの間では、北方四島の帰属をめぐる問題が長年にわたり未解決のままとなっている。そうした中、中国は近年、ロシアとともに日本周辺の海空域で合同軍事演習や共同パトロールを頻繁に実施している。両国は海上法執行分野における協力覚書を締結したほか、互いの海軍基地を利用する動きも繰り返してきた。さらに最近では、極東地域における複数の投資協力協定にも合意している。
軍事、政治、経済、外交にまたがるこうした動きは、日本に多方面からの圧力を加えると同時に、インド太平洋地域の安全保障にも新たな脅威をもたらしている。中国とロシアが示す戦略的意図は、日本への圧力だけにとどまらず、その背後にはさらに大きな野心が潜んでいる可能性があると考える。本稿では、まず経済と軍事の二つの側面から分析し、一連の動きに隠された戦略的意図を明らかにしていく。

不足を補い合う中露の経済的相互補完関係
周知のとおり、ウクライナ侵攻が始まって以来、ロシアは国際社会による経済制裁に直面してきた。外国資本の撤退が相次いだほか、主要輸出品である石油や天然ガスも、制裁によって販売先や輸出経路が制限される事態に陥った。さらに、多くの国がロシア製品の取引を制限し、工業生産に必要な機械や設備の輸入も困難になっている。とりわけ深刻なのは、侵攻開始後、ロシアの主要銀行が国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済ネットワークから排除されたことである。こうした要因が重なり、ロシア経済には継続的な圧力がかかっている。戦争が現在も終結していない以上、新たな投資家による資金供給がなければ、ロシアは経済活動を支える資源や資金が次第に枯渇する危機に直面しかねない。
一方、中国は2018年以降、米国との貿易摩擦に直面し続けている。さらに、長年にわたり解決できていない過剰生産能力の問題に加え、欧州連合(EU)も2025年以降、中国製品に対する一連の貿易制限や輸入防衛措置を実施している。こうした状況によって、中国製の工作機械や鉄鋼などの工業製品は従来の市場を徐々に失いつつあり、北京は過剰な生産能力を吸収できる代替市場の開拓を迫られている。そして、これらの工業製品こそ、現在のロシアが切実に必要としているものである。
加えて、イランと米国の対立も、中国のエネルギー輸入に支障をもたらしている。戦争が勃発する以前、中国が輸入するエネルギーの約3分の1は、ホルムズ海峡を通過する必要があった。中国が豊富な石油備蓄を保有しているとしても、地理的に近いロシア極東地域から代替エネルギーを確保できれば、将来的なエネルギー不足のリスクをさらに軽減できる。

ロシアにとっても、こうした協力は既存の重要顧客である中国へのエネルギー供給を拡大できるだけでなく、新たな投資家を呼び込み、政治的中枢から遠く離れた極東地域の開発と経済運営を進める機会となる。
第一列島線の突破を目指して深化する中露の軍事協力
経済面での相互依存に加え、中国とロシアが極東地域で進める軍事協力も、両国が現在抱える切迫した戦略的需要を満たすものとなっていると考えられる。
ロシアの立場から見れば、極東地域には約8万人の陸軍兵力が配備され、海軍は50隻以上の各種艦艇、空軍は約150機の固定翼機を保有している。しかし近年、ロシアはウクライナ東部の戦場で大量の兵力と装備を消耗し続けており、モスクワは他地域から部隊を繰り返し抽出し、前線へ投入せざるを得なくなっている。この状況が長期化すれば、ロシア極東地域の防衛態勢は次第に空洞化するおそれがある。そのため、ロシアにとって協力国からの支援はますます重要になっている。

一方、中国にとって、ロシアとの軍事協力にはさらに現実的な戦略上の必要性がある。近年、中国は列島線による封じ込めを突破する能力を繰り返し誇示してきた。2012年に習近平が「広大な太平洋には中国と米国という二つの大国を受け入れる十分な空間がある」との考えを初めて示して以来、北京は海軍の遠洋航行能力を継続的に強化するとともに、海軍航空隊や空軍の長距離巡航能力の向上にも積極的に取り組んできた。
こうした動きは、中国が太平洋への軍事的進出を拡大しようとする野心を間接的に示している。しかし、その前に立ちはだかる最大の障壁が第一列島線である。日本はこの防衛線を維持するうえで極めて重要な拠点であり、ロシアは中国がその障壁を突破するための有力な協力相手となる可能性がある。
中国が単独で日本に軍事的圧力を加える場合、その活動は主として日本の西側と南側から展開される。しかし、ロシアの軍事力と連携すれば、威圧の範囲を日本海や北海道周辺にまで拡大できる。これにより、日本は西・南・北の三方向から同時に軍事的圧力を受けることになり、事実上、三方向から包囲される構図が生まれる。

さらに、ロシアには中国が持たない地理的優位性がある。それが、現在ロシアの実効支配下に置かれている日本の北方四島である。中国にとって、将来的に軍事協力を名目としてこれらの島々に軍事力を展開できるようになれば、日本の北方に対する安全保障上の脅威を高めるだけでなく、太平洋方面における米軍の動向を近距離から監視する能力も獲得できることになる。
外交戦略と歴史認識を結びつける中露の対日圧力
現時点では、中国とロシアの協力の具体的な内容について、公開された報道や公式資料から把握できる範囲は限られている。しかし、両国が最近の外交の場で示している発言を詳しく検討すれば、対日政策において足並みをそろえつつある傾向が浮かび上がる。
その最も顕著な例が、日本に対する外交的主張をめぐる相互支持である。両国は日本に対してポツダム宣言の遵守を要求するほか、日本の現政権を軍国主義的だと非難する言説でも歩調を合わせている。こうした動きは、中国とロシアが対日政策において徐々に共通戦線を形成しつつあることを間接的に示している。今後、日本が直面する外交的・安全保障上の圧力は、さらに強まる可能性が高い。

しかし、こうした圧力の影響を受けるのは日本だけではない。前述のとおり、中国の戦略的野心は、日本を中心とする列島線の突破だけにとどまるものではない。2025年2月、中国海軍がタスマン海で事前通告を伴わない実弾射撃訓練を実施したことからも、北京の軍事的拡張の意図は南太平洋にまで及ぶ可能性がある。さらに、米国、英国、オーストラリアによる安全保障協力の枠組みであるAUKUSが構築しようとしている地域安全保障体制に、直接挑戦する事態へと発展するおそれもある。
したがって、日本は同盟国や同志国との横断的な連携を一層強化するとともに、安全保障関連三法の見直しを加速させる必要がある。国内の防衛体制と対外的な安全保障協力の双方を強化し、新たな脅威に対処できる能力を整えることが、今後の日本にとって不可欠となる。