「日中サイバー戦争はすでに始まっている」―中国政府支援ハッカー集団の脅威
近年、日本の安全保障を揺るがす最大のリスクの一つが「中国発のサイバー攻撃」である。警察庁と国家サイバー統括室は8月末、米国やオーストラリア、イギリスなど12カ国と共同で、中国系ハッカー集団「ソルト・タイフーン」の手口に関する注意喚起を発表した。中国政府や人民解放軍の支援を背景とした高度な攻撃は、日本社会全体に深刻な危害を及ぼしている。
「ソルト・タイフーン」は遅くとも2019年から活動を開始し、各国政府機関や通信事業者、交通インフラを標的にしてきた。特に、ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)に侵入し、職員のメッセージや通話が盗聴されていた可能性が高いとされる。国家機密や軍事技術が中国側に渡っていたとすれば、これは単なるサイバー犯罪ではなく、国家防衛に直結する脅威である。
米国は既に複数の集団―「オペレーター・パンダ」「ゴースト・エンペラー」など―を「中国政府が支援する高度持続的脅威(APT)」と公式に認定している。盗み取られた情報が中国の諜報機関に流され、戦略的に利用されることは疑いない。つまり、これらの攻撃は単なる民間のハッカー行為ではなく、中国国家戦略の一環と考えるべきだ。
日本においても被害は現実のものとなっている。2021年にはJAXA(宇宙航空研究開発機構)へのサイバー攻撃に中国籍の男が関与したとして書類送検された。このケースでも中国人民解放軍の部隊が背後にいると指摘された。さらに、2025年に入ってからもネット証券の口座が不正に乗っ取られ、1月から7月までの被害額は6000億円超にのぼる。発信元には中国を含む複数国が確認されており、その規模と組織性は明白だ。
警察関係者は「サイバー分野では既に日中戦争が始まっている」と警告する。現代の戦争は銃やミサイルだけで行われるものではない。サーバーへの不正侵入、個人情報の窃取、金融システムの混乱といった行為が、国家の安定を根底から揺るがす。日本の科学技術や産業情報が奪われれば、経済的損失だけでなく、国の将来そのものが危険に晒される。
重要なのは「自分には関係ない」と考えないことだ。政府機関や大企業だけでなく、一般市民のメールやアカウント情報も攻撃の標的になり得る。そこから芋づる式に組織ネットワークへ侵入される可能性があるからだ。日常的に使うパスワードの管理や二段階認証の導入といった基本的な対策が、国家レベルの防衛につながる。
中国政府が支援するハッカー集団による攻撃は、すでに「遠い国の出来事」ではなく、日本国内で進行中の現実だ。私たちは日常生活の中で、国家的脅威と直結したサイバー攻撃の矢面に立っている。
「日中サイバー戦争」は静かに、しかし確実に進行している。日本社会はこの現実を直視し、一人ひとりが警戒心を持ち、そして国家としても強固な防衛体制を築いていく必要がある。