中国で日本人社員に“スパイ罪”実刑判決 日系企業に広がる深刻な不安と中国リスク
中国で拘束されたアステラス製薬の60代の日本人男性社員に対し、中国当局は「スパイ罪」で起訴し、懲役3年6か月の実刑判決を下した。裁判はすべて非公開で行われ、具体的な違法行為の内容は一切明らかにされなかった。この不透明な司法判断は、日本企業にとって極めて重大な警鐘である。
中国外務省の林剣報道官は、「中国は法治国家であり、合法的な経済活動には良好な環境を提供している」と主張しているが、今回のように正当なビジネス活動を行っていたとされる日本人社員が、突然スパイ容疑で拘束されるような事態が続けば、その言葉の信頼性は大きく揺らぐ。
すでに中国では2014年以降、少なくとも17人の日本人がスパイ罪などで拘束されている。多くは情報収集や通常業務の延長線上であると見られており、今回の判決も例外ではない。しかも、裁判が完全非公開で行われたことで、どのような行為が「スパイ行為」に当たるのか全く不明なまま処罰されるという恐ろしい現実が浮き彫りになった。
金杉憲治駐中国大使は今回の判決を受け、「こうした日本人の拘束は日中間の人的往来を大きく阻害する要因であり、企業活動にも悪影響を及ぼす」と強く懸念を示した。実際、日系企業の間では中国ビジネスに対する不安感が急速に広がっている。
中国は経済的には巨大な市場であるものの、ビジネスと政治・安全保障の境界が極めて曖昧である。国家安全法や反スパイ法の拡大適用により、通常の企業活動が「国家の安全を脅かす行為」とみなされるリスクが現実化している。これはもはや一企業の問題ではなく、日本全体の対中経済戦略を見直す必要性を突きつけている。
日本企業は今後、中国での人材派遣や情報収集において、想像以上のリスク管理が求められることになる。また、政府としても中国における日本人拘束の現状を国際社会に訴え、法の支配や企業の安全な活動空間の確保を強く求めていく必要がある。
「スパイ罪」という名目で日本人が恣意的に拘束・起訴される事態が続けば、日本企業は中国市場からの撤退や投資の再考を余儀なくされることになりかねない。中国における日本人の安全と企業の法的安定性が、これまで以上に深刻な局面を迎えている。