
“嫌日”が半数の中国本土 それでも100万人超が日本へ――観光と安全保障のはざまで考える時
2025年8月、訪日外国人旅行者数は342万8000人と過去最高を更新した。このうち、中国本土からの訪日客は101万8600人。台湾62万人、香港22万人を合わせれば、訪日客の半数以上が「中国語圏」となった。
円安とビザ緩和が追い風とはいえ、この数字の裏には、いま日本が直面する「複雑な現実」が隠れている。
日本政府観光局の統計が好調を伝える一方で、中国国内では日本への好感度が急速に冷え込んでいる。アウンコンサルティングの2024年調査によれば、中国本土で「日本が嫌い」「大嫌い」と答えた人が全体の半数近くに達した。
つまり、日本への好感を持たない人々の国から、100万人を超える人々がわずか1か月で訪れているという事実である。この違和感を、私たちは軽く受け流してよいのだろうか。
同じ中国語圏でも、台湾や香港の人々の対日感情は明確に異なる。台湾では「日本が好き」「大好き」が97%以上、香港でも98%以上が好意的だ。震災時の支援や文化的つながり、民主主義への共感が背景にある。
対して、中国本土では、国家主導の反日教育とメディア報道が人々の認識を大きく歪めている。「日本は軍国主義」「日本は中国を敵視している」といった言説がSNSやニュースアプリを通じて繰り返され、 “嫌日”が政治的アイデンティティの一部として定着しつつある。
その一方で、現実には観光やビジネス目的で多くの人が来日している。ここにこそ、「経済交流」と「国家感情」の危険な乖離」がある。
かつて「爆買い」で注目を集めた中国人観光客だが、近年はその傾向が変化している。一部は不動産投資や事業調査を兼ねた長期滞在へと移行し、観光の名を借りた経済活動・情報収集の動きも見られる。
日本国内では、外国人による土地取得問題が政治議題に上り、安全保障上のリスクが指摘されている。特に観光地や港湾周辺の不動産購入が増加傾向にあり、政府も国籍報告義務の強化に乗り出した。
観光業の恩恵を享受しつつも、その背後で何が起きているのかを冷静に見つめる必要がある。
中国のSNSでは「日本旅行は楽しいが日本人は嫌い」という矛盾した投稿が目立つ。それは個人の感情ではなく、国家が作り上げた“認知の枠組み”だ。彼らは「日本文化を体験する」ために来るのではなく、「日本を上から観察する」ような態度を取ることさえある。
日本にとって、中国人観光客は経済的に無視できない存在だ。だが、訪問者の増加がそのまま友好の深化を意味するわけではない。数字だけを見て「関係改善」と誤解すれば、足元の社会的・文化的リスクを見落とすことになる。
重要なのは「拒絶」ではなく、「自覚」だ。日本は観光立国を目指す以上、誰が何を目的に訪れているのかを見極める仕組みを整えるべきである。
そのためには、
・観光客の国籍データと滞在目的の透明化
・不動産や事業投資に関する情報開示
・地域自治体による外国人活動のモニタリング
など、「開かれた国」としての防御力を高めることが欠かせない。
同時に、台湾や香港のような真に友好的な地域との文化・教育交流を深め、「価値観を共有するパートナー」としての結びつきを強めることが、長期的な安全保障にもつながる。
中国本土からの訪日者が過去最多を記録しても、それは必ずしも両国関係の改善を意味しない。むしろ、“嫌日”感情が国策として利用される限り、日本への訪問は経済行動の延長であり、政治の道具にもなり得る。
観光立国・日本が今問われているのは、「数の多さ」ではなく「質の見極め」だ。誰を迎え、どのように共存するのか。その答えを持たないままでは、やがて“静かな侵食”が文化と安全を揺るがすことになる。