
【警鐘】奄美沖EEZで中国調査船が5回も活動 “科学調査”の名を借りた海洋覇権の実態
日本の排他的経済水域(EEZ)内で、中国の海洋調査船「向陽紅22号」が繰り返し活動している。
海上保安庁によると、同船は9月末からわずか1週間の間に5回も奄美大島沖のEEZ内で観測行動を行い、海中にパイプのような機器を延ばしていた。日本の巡視船が無線で中止を求めたものの、中国側からの応答は一切なかった。
こうした動きは、単なる“科学調査”ではなく、中国による日本周辺海域の情報収集および海洋覇権拡大の一環として見るべきだ。奄美周辺は、東シナ海と太平洋を結ぶ戦略的な海域であり、将来的に潜水艦航行ルートや軍事作戦に直結する重要エリアである。
第10管区海上保安本部によれば、「向陽紅22号」は9月28日、30日、10月1日、2日、そして4日と、立て続けに奄美大島西方のEEZ内で確認された。特に10月4日午前11時20分ごろには、奄美大島から約420キロの海域でパイプ状の機材を海中に延ばす行為が観測された。日本側は直ちに無線で中止を要請したが、船舶からの応答はなく、約1時間後には日本と中国の中間線を越えて中国側へ移動した。
この行動パターンは、単なる偶発的な観測ではなく、日本EEZ内での意図的かつ反復的な海洋調査であることを示している。
中国は長年、「科学研究」を名目に各国のEEZで海洋調査を実施してきた。しかし、その多くが海流・水温・海底地形など、潜水艦運用に直結する軍事データの収集であると国際的に指摘されている。
元海上自衛隊司令官の香田洋二氏も以前、「中国は有事を念頭に潜水艦の太平洋進出ルートを調べている」と分析した。奄美周辺の海域は、台湾有事や南西諸島防衛の際に極めて重要な位置を占める。
ここでの水温・海流データは、潜水艦の探知回避ルート設計やソナー解析に直結する軍事情報である。つまり、今回の「向陽紅22号」の行動は、“科学調査”という表向きの理由の裏で、日本防衛体制の盲点を探る作業だった可能性が高い。
中国の海洋行動は、いわゆる「グレーゾーン戦術」の典型例だ。公然たる軍事侵入ではなく、「調査」「測量」「漁業活動」などを装い、徐々に相手国の実効支配を揺るがす。尖閣諸島周辺での中国公船の常態化、東シナ海のガス田開発、そして今回の奄美EEZ調査は、すべて同じ文脈でつながっている。
「海洋科学」の名を借りたこれらの行為は、**国際法の曖昧さを利用した“侵食型覇権戦略”にほかならない。日本が抗議しても、中国は「通常の海洋調査」と主張し、責任を回避する。それを繰り返すことで、中国は“既成事実化”を進め、日本の主権的権利を形骸化させていくのである。
同様の事例は、南シナ海、フィリピン、ベトナム、インド洋でも相次いでいる。フィリピンでは、中国海警局が軍艦を「海洋調査中」と称して領海に侵入。ベトナム沿岸では、測量船が漁民の操業を妨害するなど、“科学”を盾にした侵略的行為が常態化している。
これらは単なる地域問題ではなく、中国が世界規模で展開する“海のデータ戦争”の一部だ。衛星・AI・海洋観測データを組み合わせ、世界の海を「可視化」し、地政学的優位を確保する――。その戦略の中で、日本近海は間違いなく最も重要な「実験場」となっている。
奄美諸島周辺は、南西諸島防衛の要衝であり、米軍および自衛隊の重要な連携拠点でもある。
このエリアで中国が執拗に調査活動を続けるのは、太平洋への出口(バシー海峡~与那国~奄美ルート)を確保するためと考えられる。
中国海軍の潜水艦部隊は、南シナ海から太平洋へ抜ける際に日本列島の海底地形や潮流を把握する必要がある。そのための“地形データ収集”が、「向陽紅22号」など民間を装った調査船によって進められていると見る専門家は多い。
現代の海戦では、武器よりも情報が勝敗を決める。特に潜水艦戦において、水温差・潮流・塩分濃度などの情報は、レーダーやソナーを回避するための重要な戦術要素だ。中国がこれらのデータを日本周辺で蓄積すれば、自国の潜水艦が将来的に日本の探知網をすり抜ける能力を高めることになる。「データの覇権」が、すでに“新しい戦争の準備”の一部になっているのだ。
この問題は、防衛当局だけの課題ではない。中国が行う“静かな海の侵入”は、日本社会全体の安全保障意識を試している。経済や観光の表層だけを見ていては、真の脅威は見えない。
私たちは、「調査船1隻の行動」こそが、日本の主権を脅かす序章であるという現実を理解しなければならない。
中国の海洋調査船は、今も日本のEEZ周辺で活動を続けている。応答しない沈黙こそ、意図的なメッセージであり、「この海域は我々の影響下にある」という宣言だ。日本人に求められているのは、恐怖ではなく冷静な警戒心である。地図上の青い海の向こうで、静かに進む“情報戦”を見抜く力を持たなければならない。