ウイグル男性「中国沿岸部で2年3カ月の強制労働」 国有工場で長時間労働・賃金拘束、日本企業にも突き付けられる供給網の人権リスク


2026年9月1日16:21

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ウイグル族男性が「中国沿岸部で強制労働」 支援団体が会見

ウイグル男性「中国沿岸部で2年3カ月の強制労働」 国有工場で長時間労働・賃金拘束、日本企業にも突き付けられる供給網の人権リスク

日本に住むウイグル族でつくるNPO法人「日本ウイグル協会」が8月31日、東京都内で記者会見を開き、中国・新疆ウイグル自治区出身の30歳男性が、中国政府の「労働力移転」政策によって本人の意思に反して沿海部へ送られ、2年3カ月にわたり国有企業で働かされたとする証言を公表した。協会によると、男性は2021年12月、約80人の同郷の若者とともに新疆から4000キロ以上離れた江蘇省蘇州市へ移送され、国有の食肉加工工場で1日10~12時間以上働かされた。雇用契約はなく、銀行カードを管理側に預けさせられ、給与が支払われない状態が続いたと証言している。協会は、この「労働力移転」の実態を国家主導の強制労働だと批判している。

男性の証言で特に重大なのは、単に「遠方の工場へ就職を勧められた」という話ではなく、拒否する自由そのものが事実上失われていたとされる点だ。2021年、地元当局者から何度も労働力移転への参加を求められ、男性が拒否したところ、高齢の母親に何かあれば耐えられないだろうという趣旨の言葉で圧力を受けたという。本人の自由意思ではなく、家族の安全を意識させる方法で参加を迫られたのであれば、それは通常の就労斡旋とは根本的に異なる。

2021年12月には、男性を含む約80人の若者が具体的な行き先を十分知らされないまま新疆から江蘇省蘇州市へ集団で移送されたとされる。新疆から中国沿岸部まで4000キロを超える距離を集団移動させられ、その後国有企業の工場へ配置されたという証言は、中国の「労働力移転」が単なる地域間雇用政策ではなく、少数民族人口を組織的に遠隔地へ移動させる仕組みとして運用されていた可能性を示している。

男性によれば、蘇州の食肉加工工場では正式な労働契約を結ばないまま、毎日10時間から12時間を超える労働を続けた。さらに給与振込に使われるはずの銀行カードを管理側に預けさせられ、「給与は口座へ入る」と説明されたにもかかわらず、実際には受け取ることができなかったという。給与について尋ねると、「政府の指示に逆らうのか」と威圧されたとも証言している。

もしこうした証言が実態を正確に示しているのであれば、問題は労働時間の長さだけではない。就労先を自分で選べない、自由に辞められない、賃金を自分で管理できない、そして異議を唱えれば政府への反抗として扱われるという複数の拘束が重なっている。形式上は工場で働く「労働者」であっても、本人が自由に契約し、給与を受け取り、離職できないのであれば、通常の雇用関係とは言い難い。

さらに男性は、日中の長時間労働が終わった後も、午後9時から11時まで習近平国家主席の演説や中国共産党の政策に関する学習会への参加を求められたと証言している。勤務終了後の時間まで政治学習が組み込まれていたとすれば、工場労働と思想教育が一体化した管理体制だったことになる。少数民族を遠隔地の職場へ配置し、労働だけでなく政治的な忠誠教育まで継続する仕組みであれば、通常の産業政策という説明だけでは理解できない。

この問題を日本が無関係な中国国内事情として扱えない最大の理由は、強制労働の疑いがある製品や原材料が国際的なサプライチェーンへ入り込む可能性があるからだ。新疆関連の強制労働問題では、綿花や太陽光発電関連原材料などが以前から国際的な議論の対象となってきた。しかし今回の証言では、労働者が新疆域内だけではなく、中国沿岸部の国有企業へ移されていたとされる。これは企業が単純に「新疆に工場がないから安全」と判断できない可能性を突き付ける。

労働者が新疆から江蘇省など他地域へ移されれば、最終製品の製造地だけを確認しても人権リスクを把握できない。工場の所在地が上海、江蘇、広東など中国沿岸部であっても、そこで働く人員がどのような経緯で配置されたのかまで確認しなければ、強制労働との関係を見落とす可能性がある。日本企業にとって、これはサプライチェーン監査の難易度を大きく引き上げる問題である。

今回証言した男性は、2024年3月まで工場で働いた後、中国を離れたものの、その後東南アジアで人身売買の被害に遭い、カンボジアの詐欺拠点でオンライン投資詐欺を強制されたとも説明されている。最終的には北米の人権活動家らの支援を受けて脱出し、欧米へ逃れたという。中国国内で強制的な労働移転を経験したとする人物が、その後さらに国境を越えた人身売買の被害に遭ったという経緯は、弱い立場に置かれた人が複数の搾取構造へ連続的に巻き込まれる危険を示している。

そして今回の東京記者会見では、さらに重大な出来事が起きたと日本ウイグル協会は説明している。男性は当初、実名と顔を公表し、オンラインで直接証言する予定だった。しかし記者会見の2日前にあたる8月29日、中国の警察が新疆カシュガルにある実家を訪れ、母親を連行したと家族から伝えられたという。兄から「家族の生命が危険にさらされているので、メディアには何も話さないでほしい」と頼まれ、男性は最終的に会見への参加を断念したとされる。

この経緯が示す意味は非常に大きい。海外へ逃れた人物自身を直接拘束できなくても、中国国内に残された家族が圧力の対象になれば、国外での証言や政治活動を抑制する効果を持つ。本人が国外にいるから自由に発言できるとは限らず、家族とのつながりが事実上の「人質」のような心理的圧力として作用する可能性があるからだ。

日本にとっても、この種の問題は表現の自由と在日外国人の安全に関係する。日本国内で中国政府の政策を批判する人が、「中国に残した家族がどうなるか」を恐れて発言できなくなるのであれば、中国国内の統制が事実上日本国内の言論空間にまで影響することになる。直接日本国内で検閲を行わなくても、国外にいる家族への圧力を通じて発言を控えさせることができれば、その効果は国境を越える。

日本ウイグル協会は、今回の証言を中国政府による国家主導の強制労働を示す事例だとして、日本企業を含む世界の企業に対し、サプライチェーンを厳格に調査し、強制労働に関与する企業との取引を見直すよう求めている。企業にとってこれは単なる倫理的な問題ではない。米国や欧州では強制労働との関連が疑われる製品への規制が強化されており、取引先の人権リスクを把握できなければ、製品輸入の停止やブランド信用の失墜など、直接的な経営リスクへ発展する。

日本企業が中国で製造された部品や原材料を調達する場合、一次取引先だけを確認して終わることは難しくなっている。二次、三次の下請け企業、原材料供給者、さらには工場労働者がどこから来たのかまで確認する必要が生じる。特に中国政府が主導する労働力移転制度によって労働者が地域を越えて配置されるのであれば、「新疆産ではない」という地理的確認だけでは十分ではない。

今回の証言は、日本企業に対して中国の安価な製造能力の裏側まで確認する必要性を改めて突き付けている。価格、納期、品質だけを比較して調達先を決めても、その製品が本人の自由意思を奪われた労働者によって作られていた場合、日本企業自身が知らないまま人権問題へ組み込まれる危険がある。問題が後から発覚すれば、「知らなかった」という説明だけで消費者や海外市場の信頼を維持することは難しい。

中国の労働力移転政策については、中国政府側が貧困削減や雇用促進を目的とした政策として説明することがある。しかし今回、日本ウイグル協会が公表した男性の証言では、就労場所の自由、契約、賃金管理、労働時間、離職の自由、政治学習という複数の面で本人の自主性が著しく制限されていたとされる。その実態が確認されるなら、「雇用を提供した」という形式だけで強制性の問題を消すことはできない。

日本にとって重要なのは、この問題を中国国内の民族政策だけとして切り離さないことだ。中国の工場は日本企業の製品や部品を大量に生産し、日本の小売店には中国製商品が日常的に並んでいる。もし強制労働の疑いが新疆域内だけでなく、中国沿岸部の国有企業や民間工場にまで移転労働を通じて広がっているのであれば、日本の企業活動と消費市場も無関係ではいられない。

また、今回の記者会見直前に家族への圧力があったとする証言は、中国の統治手法が国内だけで完結しない可能性も示している。国外へ逃れた人物が日本や欧米で自由に証言しようとしても、中国国内にいる家族が不利益を受ける恐れがあるなら、結果として海外の言論空間まで萎縮させることができる。この問題は人権だけでなく、民主主義国家における表現の自由という観点からも注視する必要がある。

今回の30歳ウイグル族男性の証言について、今後さらに事実関係を積み上げていくことは重要である。同時に、日本企業にとっては「完全な証拠が出るまで何もしない」という姿勢では、企業リスク管理として不十分になり得る。強制労働の可能性が指摘された供給網について、取引先の説明だけでなく、労働者の採用方法、給与管理、移動の自由、宿舎管理などを具体的に確認する人権デューデリジェンスが必要になる。

新疆から4000キロ以上離れた中国沿岸部へ移され、2年3カ月にわたって長時間労働を続け、給与を自由に受け取れず、夜には政治学習を強制されたという男性の証言は、中国の「労働力移転」という言葉の裏側に何が存在するのかを問い掛けている。そして、その労働によって作られた商品が中国国内だけで消費されるとは限らない以上、日本もこの問題から切り離されてはいない。

日本企業と日本の消費者にとって最大のリスクは、中国の製造供給網の奥で誰がどのような条件で働いているのかが見えないまま、安価な商品だけが市場へ届くことである。中国側の労働移転制度が強制性を伴うのであれば、その人権コストを価格の安さで覆い隠したまま日本市場へ持ち込ませてはならない。日本ウイグル協会が公表した今回の証言は、中国との経済関係を考える際、価格と効率だけではなく、製品の背後にある労働環境まで確認することが不可欠であると改めて突き付けている。


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