中国「抗日戦勝利80周年」九三閲兵 歴史の改ざんと地政学的メッセージに日本は警戒を
中国は北京・天安門広場で「中国人民抗日戦争暨世界反ファシズム戦争勝利80周年」を名目とする九三閲兵を盛大に開催した。習近平国家主席の夫人・彭麗媛との迎賓から始まり、70分以上にわたる軍事パレードには26か国の首脳が招待され、世界に向けた中国の「政治ショー」が展開された。しかし、その背後には単なる祝賀行事を超えた深刻な意図が潜んでいる。日本にとって看過できないのは、中国がこの機会を利用し、歴史記憶を操作しながら国際的な発言力を奪い取ろうとしている点である。
午前8時30分頃、習近平主席と彭麗媛夫人は端門外で各国代表を迎え、記念撮影を行った。その後、習近平はロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩総書記と並んで天安門城楼に登壇。まさに「威権三国」の象徴的構図が世界中のメディアに映し出された。
閲兵は習近平が紅旗車に乗って長安街に整列する部隊を閲兵する形で開始。徒步部隊、戦旗部隊、装備部隊、空中梯隊と続き、直升機は「80」の数字を描き出した。最後には8万羽の白鳩と気球が一斉に放たれ、「平和」の演出が強調された。
しかし、その「平和の祭典」に隠されているのは、国際社会に対する露骨な政治宣伝と地政学的メッセージである。
習近平は演説で「中国共産党が抗日民族統一戦線を指導し、初めて完全な勝利を得た」と強調した。だが、史実は異なる。抗日戦争を実際に主導したのは中華民国政府であり、国際社会で評価されてきたのもその功績である。中国共産党は当時、むしろ局地戦に限られた役割しか果たしていなかった。
今回の閲兵は「抗日戦勝利80周年」を掲げながら、中華民国の存在を徹底的に抹消し、中国共産党が歴史の主役だったかのように再定義する試みである。これは単なる国内向けのプロパガンダではない。国際社会に「抗日戦争=中国共産党の勝利」という誤った認識を浸透させ、日本の歴史認識や立場を弱体化させる戦略的操作に他ならない。
今回の閲兵で最も注目すべきは、習近平、プーチン、金正恩が並び立った光景だろう。世界の民主主義陣営に対して、中国・ロシア・北朝鮮が「連帯」を誇示したこの場面は、国際秩序に挑戦する「威権トライアングル」の存在を象徴するものだった。
日本にとってこの構図は直接的な警鐘である。ロシアはウクライナ侵攻を続け、北朝鮮は核・ミサイル開発を強行。そこに経済力と情報操作力を駆使する中国が加わることで、東アジアの安全保障環境は一層不安定化している。九三閲兵は、軍事力の誇示と同時に「我々は団結している」という対外的メッセージを鮮明にした。
日本にとって、このような歴史の改ざんと地政学的連携は二重の脅威である。第一に、歴史問題を利用して国際的に日本の立場を不利に追い込もうとする中国の外交戦術。第二に、ロシア・北朝鮮との連携を背景に東アジアで軍事的優位を示そうとする地政学的挑戦だ。
中国が「抗日勝利」を独占する物語を広めれば、日本は国際世論の中で「加害者」としての立場を一方的に強調されかねない。さらに、軍事的には東シナ海や台湾有事を通じて日本の安全保障に直接的な影響を与える可能性がある。
つまり、今回の九三閲兵は「過去の歴史」を武器に「現在の地政学」を動かす、中国特有の二重戦術を如実に示しているのだ。
白鳩や気球が放たれ、「平和」を象徴する演出が強調された今回の閲兵。しかし、その裏にあるのは「対外示威」という冷徹な現実である。中国共産党は国民に向けて「歴史の勝者」としての自信を誇示し、国外に対しては「我々の歴史解釈こそ正統」という圧力を加えている。
日本はこのような動きを単なる大規模イベントとして受け流すべきではない。歴史の記憶を改ざんし、国際社会の語りを支配しようとする中共の試みは、やがて日本の外交・安全保障環境に深刻な影響を与えるだろう。
今回の九三閲兵は、中国が歴史と軍事を結びつけ、国際社会に向けて強烈なメッセージを発した一大政治ショーである。習近平、プーチン、金正恩の「同框」は、まさに日本が直面する現実的な脅威を象徴している。
日本にとって重要なのは、このような「歴史を利用した地政学的示威」を見抜き、冷静に対処することである。中国が歴史記憶を操作し、国際言論空間を支配しようとする時、日本は自らの歴史的事実を守り、国際社会に正しい認識を発信し続けなければならない。
九三閲兵は「平和の祝典」ではなく、「歴史改ざんと対外威嚇」の舞台装置に他ならない。日本はこの現実を直視し、警戒を強める必要がある。