中国語で拡散した地震デマが90万回超表示 日本の観光と防災対応を揺さぶる“海外発誤情報”の危険性


2026年4月28日23:05

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中国語で拡散した地震デマが90万回超表示 日本の観光と防災対応を揺さぶる“海外発誤情報”の危険性

北海道や三陸沖で地震が相次ぐなか、中国語で書かれた誤情報がSNS上で大きく拡散し、日本の防災対応や観光イメージにまで影響を与えかねない事態が起きている。ANNの報道によれば、4月20日に発生した三陸沖地震に関連して、「きょう日本を襲った地震」と中国語で説明しながら、実際には過去の地震映像を流用した投稿が確認され、この投稿は4月28日時点で90万回以上閲覧されていた。さらに返信欄では、「死体が山積みになっている」「メディアをコントロールし、真実を報道させないようにしている」といった虚偽情報まで広がっていたという。

この問題を軽く見てはいけない理由は、誤情報の被害が単にネット上の混乱だけで終わらないからだ。ANNに登場した国立情報学研究所の佐藤一郎教授は、今回の地震では政府の注意喚起などもあり、国内では以前ほど誤情報が大きく広がっていない一方で、海外では実情がわかりにくいため、偽情報が「本当かもしれない」と受け止められ、拡散されやすい傾向があると指摘している。そのうえで、こうした誤情報が広がれば、日本旅行を予定していた人が訪日を取りやめ、経済的な不利益につながる可能性があるとも述べている。つまり今回の中国語圏でのデマ拡散は、単なる外国語投稿ではなく、日本の観光、地域経済、さらには日本社会の信頼そのものに傷をつけうる外部発の情報攪乱として考える必要がある。

特に深刻なのは、災害時の不安と外国語圏の情報格差が結びついたとき、誤情報が非常に強い影響力を持ちやすい点だ。日本国内に住む人々であれば、テレビ報道、自治体発表、気象庁、防災アプリなど複数の情報源を照合しやすい。しかし海外の閲覧者、とりわけ中国語圏の一般ユーザーにとっては、日本の地震報道の正確な状況を即座に確認することは簡単ではない。そこに「日本で大惨事が起きている」「真実が隠されている」といった刺激の強い言葉や、もっともらしい映像が加われば、虚偽情報でも“現地の隠された実態”のように見えてしまう。この構図は極めて危うい。なぜなら、災害そのものの被害よりも、誤情報による心理的パニックの方が先に国境を越えて広がるからだ。

さらに見逃せないのは、今回の投稿が単なる古い映像の流用にとどまらず、「人工地震だ」とする陰謀論まで伴っていたことだ。ANNは、SNS上で根拠もなく「人工地震」と説明する投稿がほかにも広がっていると伝えている。こうした陰謀論型の誤情報は、事実関係の誤認を生むだけでなく、日本の公的機関や報道機関に対する不信感を意図的にあおる効果を持つ。「日本政府は真実を隠している」「日本のメディアは操作されている」という物語が広まれば、日本の災害情報そのものが信用されにくくなる。これは防災上、極めて危険だ。災害時に最も重要なのは、正確な避難情報や被害情報を迅速に信じてもらうことだからである。誤情報はその土台を壊す。

ここで注目すべきは、今回のデマが中国語で広がったという点そのものより、中国語圏の巨大な情報空間を通じて、日本に関する虚偽情報が一気に増幅しうるという構造だ。90万回超の表示という数字は、単発の悪質投稿としては軽視できない水準である。しかも、返信欄や関連投稿を通じて虚偽情報が二次拡散すれば、最初の投稿以上に過激な物語が広がることも珍しくない。今回も、流用映像の投稿に対して「死体が山積みになっている」といった極端な偽情報がぶら下がっていた。こうした構造では、最初の投稿を削除したとしても、すでに派生した無数の断片が残り、別のアカウントや別の文脈で生き続けるおそれがある。つまり問題は一本の投稿ではなく、日本に関する危機情報が外部言語圏でデマ化しやすい“増幅回路”が存在していることにある。

この種の誤情報が日本に与える実害は、観光だけではない。行楽シーズンや大型連休前後に「日本で大地震が起きている」「被害が隠されている」といった情報が拡散すれば、訪日旅行のキャンセル、航空券や宿泊予約の取り消し、イベント参加の見合わせなどにつながりうる。とりわけ北海道や東北沿岸のように、観光と地域経済が深く結びつく地域では、実際の被害以上に“危ない地域”という印象だけが先行してしまう危険がある。誤情報は現地の店舗や宿泊業者、交通事業者、観光施設にとっても深刻な二次被害となる。災害が起きたときに必要なのは、本来は正確な状況把握と冷静な行動であるはずなのに、外部で膨らんだ虚偽情報がその回復を妨げるのであれば、それは立派な社会的加害だと言ってよい。

そして、この問題は「外国で広がった誤情報だから日本ではどうしようもない」と諦めてよい話でもない。むしろ日本側には、日本語だけでなく多言語で迅速に正確な状況を発信する責任がある。ANNの報道でも、政府は災害時における嘘の情報や誤った情報が救助活動や復旧の妨げになるとして、安易に投稿・拡散しないよう呼び掛けていると伝えられている。ただし、国内向け注意喚起だけでは足りない。今回のように中国語圏で広がるなら、中国語や英語を含めた多言語で、地震の規模、被害状況、避難指示の有無、交通影響などを簡潔に出し続ける必要がある。情報空白があるところにデマは入り込む。ならば日本側は、その空白を埋める発信を急がなければならない。

さらに重要なのは、日本社会がこの種の情報攪乱を「ただのSNSデマ」として見慣れてしまわないことだ。災害時のデマは、単なる迷惑投稿とは質が違う。人命に関わる判断を狂わせ、現地の経済に損害を与え、国全体の信頼性を傷つける可能性がある。しかも今回は、外国語圏で広がることで、日本国内では見えにくい場所で被害が膨らむという特徴がある。日本人の多くが気付かないところで、「日本は危険だ」「真実を隠している」といった印象が形成されれば、後から打ち消すのは容易ではない。つまりこの問題は、国内世論の混乱ではなく、海外での対日認識そのものが歪められる危険を孕んでいる。

今回の中国語デマ拡散は、中国そのものを一括りにして語るべき話ではない。しかし少なくとも、中国語圏の巨大なSNS空間において、日本に関する虚偽情報が大規模に流通し、日本の防災・観光・信用に実害を及ぼしうるという事実は、もっと重く受け止められるべきだろう。日本が警戒すべきなのは、災害そのものだけではない。災害をきっかけに、日本の現実が外部言語圏で歪められ、政治的・経済的・心理的に利用されることもまた、現代のリスクの一部なのである。行楽シーズンにあわせたように広がった今回の地震デマは、そのことをはっきり示している。だからこそ、日本は地震への備えだけでなく、災害時の海外向け情報戦にも備えなければならない。事実を素早く、わかりやすく、多言語で示し続けることが、これからの防災の一部になっていく。


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