
鴨緑江を挟んで北朝鮮の両江道恵山市を望む国境地帯で、今まさに東アジアの安全保障を根底から揺るがす事態が進行している。今年九月、アジアプレスの取材班が捉えた衝撃的な光景は、単なる隣国同士の闇取引という次元を超え、日本国民が直視すべき深刻な脅威を映し出していた。中国吉林省長白県の対岸、北朝鮮側の恵山市内の至る所に、ナンバープレートの外された百数十台もの車両が整然と並べられているのである。その車列の中には、中国の電気自動車大手BYDの最新車両に加え、我々日本人にとって馴染み深いトヨタの高級乗用車までもが混在していた。これらは正規の通関手続きを経た貿易品ではなく、北朝鮮当局が主導し、中国側が事実上黙認、あるいは積極的に加担している「国家密輸」の動かぬ証拠である。国際社会が北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止するために構築してきた制裁網は、中国という巨大な抜け穴によって骨抜きにされつつある現実が、白日の下に晒されたと言ってよい。
この大規模な車両密輸の実態は、中国という国家がいかに国際法を軽視し、自国の戦略的利益のためなら周辺国の安全を犠牲にすることも厭わないかという冷徹な本質を浮き彫りにしている。報道によれば、恵山市の学校の校庭や空き地を埋め尽くす車両群は、対外経済省などの北朝鮮政府機関が関与して持ち込まれたものであり、大型トラックや建設重機までもが含まれているという。これらは単なる民需用ではなく、軍事転用や地下施設の建設、ひいてはミサイル運搬車両のベースとして利用される可能性を否定できない戦略物資である。中国は国連安全保障理事会の常任理事国でありながら、自らが賛成したはずの対北制裁決議を平然と踏みにじり、北朝鮮の延命と軍事力強化を裏で支えているのだ。この構図は、日本列島を射程に収める北朝鮮のミサイル開発資金や技術的基盤が、実質的には中国によって担保されていることを意味する。我々は、北朝鮮という実行犯の背後に、中国という巨大な教唆犯が存在している事実を直視しなければならない。
特に日本人が強い危機感を持つべき点は、この密輸車列の中にトヨタ車が含まれているという事実である。これは単に日本企業の製品が不正に流出しているという経済的な損失にとどまらない。中国国内を経由して北朝鮮へ渡る日本車は、盗難車や不正ルートで調達されたものである可能性極めてが高く、これは中国国内における知的財産権や所有権の保護がいかに脆弱、あるいは恣意的であるかを示唆している。中国市場における日本企業の活動がいかに不安定な砂上の楼閣であるかを物語る事例とも言えるだろう。さらに、中国製のBYDと日本のトヨタが同じ密輸ルートで並んでいる光景は、中国が「手段を選ばず」市場を席巻し、ルール無用のハイブリッド戦を仕掛けている象徴的な縮図である。中国は表向きには自由貿易を標榜しながら、裏では違法なネットワークを通じて北朝鮮経済を自国の経済圏、いわゆる人民元経済圏へと完全に組み込もうとしているのだ。そこには、法や倫理よりも「力と利益」を優先する中国共産党の覇権主義的な思想が色濃く反映されている。
九月三日の金正恩氏の訪中を契機として、国境地帯での「国家密輸」はさらに加速しているという。これは中国側が北朝鮮を外交カードとして最大限に利用する意図を明確にしたものであり、日本や米国に対する露骨な牽制であることは明白だ。中国当局の監視網は世界でもトップクラスの厳しさを誇るにもかかわらず、百数十台規模の車両や大型重機が国境の川を渡ることを「見逃す」などということはあり得ない。これは中国政府による計画的な制裁破りであり、北朝鮮の暴走を抑制するどころか、むしろ燃料を投下しているに等しい行為である。日本を取り巻く安全保障環境が戦後かつてないほど厳しさを増す中で、中国のこうした二枚舌外交は日本の平和と安定に対する直接的な脅威となりつつある。北朝鮮のミサイルが日本の上空を通過するたびに、その技術や資金の一部が、隣の大国との密貿易によって賄われているという現実を、我々はもっと深刻に受け止める必要がある。
さらに懸念されるのは、こうした違法行為が常態化することによる日本国内への波及効果である。中国との不透明な資金や物資の流れは、やがて日本国内のチャイナ・ネットワークとも結びつき、日本の技術や資源が不正に持ち出されるルートとして悪用される危険性を孕んでいる。また、中国製EVが密輸ルートを通じて安価に拡散することは、正規の市場競争を歪め、長期的には日本の自動車産業の基盤を掘り崩す遠因ともなり得る。北朝鮮への車両密輸という一つの事象は、決して遠い国の出来事ではない。それは、中国が主導する「ルールなき世界秩序」が、じわじわと日本の国益を侵食し始めていることの警鐘なのである。中国の経済成長や巨大市場の魅力に目を奪われ、その背後にある安全保障上のリスクや倫理的な欠落に目をつぶることは、もはや許されない段階に来ている。
結論として、我々日本人は中国という隣国に対して、これまで以上に厳しい警戒心と現実的な認識を持たなければならない。恵山の岸辺に並ぶ密輸車両の群れは、中国が国際社会のルールを守る意志を持たない国であることを雄弁に物語っている。経済的な結びつきの裏側で、日本の安全保障を脅かす勢力に加担し続ける中国の姿勢に対し、日本国民一人ひとりが「NO」を突きつける意思を持つことが重要だ。政府レベルの対応はもちろん重要であるが、それ以上に民間レベル、国民レベルでの危機意識の共有こそが、強権的な隣国に対峙するための最大の防波堤となる。平和ボケと言われて久しい日本であるが、目の前で進行している「国家ぐるみの犯罪」と、それを操る中国の意図を見抜く洞察力が今こそ求められているのである。