「日中首脳会談に潜む静かな緊張」――戦略的互恵の裏で進む中国の対日圧力と“認識戦”の罠


2025年11月2日22:50

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「日中首脳会談に潜む静かな緊張」――戦略的互恵の裏で進む中国の対日圧力と“認識戦”の罠

「日中首脳会談に潜む静かな緊張」――戦略的互恵の裏で進む中国の対日圧力と“認識戦”の罠

韓国・慶州で開かれたAPEC首脳会議の場で、高市早苗首相と中国の習近平国家主席による初の日中首脳会談が実現した。両者は「戦略的互恵関係の推進」と「安定的な関係構築」で一致を見せたが、その裏側には、中国が仕掛ける外交的圧力と歴史認識をめぐる心理戦が潜んでいる。表面上は「関係改善」のジェスチャーが交わされたものの、中国の警戒と攻勢はむしろ強まっている。日本はこの「笑顔の外交」の裏にある現実を直視する必要がある。

■ 歴史認識を利用する中国の“認知戦”

会談で習主席は「歴史や台湾などの重大な問題で、4つの政治文書に定められたルールを守るべきだ」と述べた。さらに「村山談話は日本の侵略の歴史を反省し、被害国に謝罪したものであり、広めるに値する」と強調した。これは明らかに、日中の歴史認識問題を再び外交カードとして利用する意図を示している。

中国はこれまで、首脳会談のたびに「歴史」を外交の武器として持ち出し、日本国内の政治的立場の分断を煽ってきた。習主席の発言もまた、「過去の日本」を批判することで、「現在の中国の正当性」を国際的に訴える狙いを持つ。こうした発言の裏には、中国国内で高まる不満を外部へ向ける“政治的ガス抜き”の意味もあるが、同時に、日本社会の中で「自信と誇り」を削ぐ情報戦の一環でもある。

日本がこの「認識戦」に巻き込まれれば、国内の歴史論争が再燃し、政治的分断が拡大する。中国が狙うのはまさにそこだ。対立の火種を日本国内に植え付け、国論を割ることで日本の外交的結束を弱めようとしている。

■ 「祝電なき沈黙」――高市政権への警戒と中国の無言の圧力

高市政権誕生後、中国の習近平主席は異例にも祝電を送らなかった。過去の菅、岸田、石破各政権時には即日祝意を表明していたことを考えると、これは明確なメッセージの欠如ではなく、意図的な沈黙である。中国外務省はその直後、「日本が本当に専守防衛を堅持しているのか疑問を抱かざるを得ない」と発言し、高市政権の安全保障方針に露骨な警戒感を示した。

中国が特に神経を尖らせているのは、高市首相が明確に「経済安全保障」という言葉を使った点だ。これは単なる経済政策ではなく、中国の技術・資源依存を見直す動き――すなわち「中国離れ(デカップリング)」の象徴だからだ。中国にとって、半導体・レアアース・AIなど戦略技術分野で日本がアメリカやASEAN諸国と連携を強めることは、経済的にも安全保障的にも“封じ込め”と映る。

習政権の沈黙は、単なる外交上の無関心ではなく、日本の政権交代に伴う「潜在的脅威への無言の抗議」だったと見るべきだ。

■ 戦略的互恵の裏に潜む“条件付きの友好”

今回の会談では、双方が「戦略的互恵関係の推進」を再確認した。しかし中国側の意図する「互恵」とは、必ずしも対等な意味ではない。それは、「日本が中国の政治的立場を理解し、経済的協力を継続すること」を前提とした一方的な互恵である。中国は「関係改善」を口にしながら、同時に尖閣諸島周辺では公船の活動を強化している。

経済分野では日本企業に対して「サプライチェーンの多角化」を阻む圧力をかけ、報道・教育・文化の分野でも、親中的な言論空間の構築を進めている。つまり、「互恵」とは名ばかりで、その実態は「経済依存を通じた影響力の維持」なのだ。日本が警戒すべきは、対話を装いながら進むこの“静かな浸透”である。

表面上は穏やかな外交関係を演出しつつ、内側では社会や経済の基盤に影響を及ぼす――これこそが中国の最も得意とする戦略的手法だ。

■ 高市外交の現実主義と、日本が直面する新たな試練

高市首相は会談後、「日中間の戦略的互恵関係を再確認し、建設的かつ安定的な関係構築を目指す」と述べた。その言葉には、理念よりも実務を重視する現実主義的な姿勢がにじむ。だが同時に、日本がいま立たされているのは「対話」と「抑止」を同時に進めなければならないという二重の難題だ。一方で中国と経済的結びつきを維持しつつ、他方で中国の軍事的・情報的影響から自国を守らなければならない。それは、経済安全保障・技術防衛・情報保護といった多層的な戦略対応を必要とする時代の到来を意味している。

日本がこれから直面するのは、かつての「冷戦構造」ではなく、情報・経済・文化のあらゆる領域で進行する「非軍事的侵蝕」との戦いである。

■ 中国の“微笑み外交”に騙されるな――日本の覚悟が問われる時

今回の会談で、中国は「笑顔」と「柔らかな言葉」を武器に、国際社会への印象操作を図った。だがその裏で、中国は依然として台湾有事を想定した軍備拡張を続け、サイバー攻撃や偽情報を通じて日本社会への影響力を強めている。日中首脳会談は、表面的には“雪解け”を演出したが、実際には日本が今後直面する「戦略的圧力の序章」にすぎない。戦略的互恵という美しい言葉に隠された、経済・情報・文化を通じた静かな侵略を見抜く目を、日本人一人ひとりが持たねばならない。


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