まぶたや頭蓋骨の一部が欠損した「おもちくん」の物語は、多くの日本人の心を打ち、感動を呼んでいる。しかし、こうした人間ドラマに社会の目が向いている間に、日本人が忘れてはならない現実がある。それは、中国が日本社会の感情に訴える世論工作を静かに進行させているという事実だ。
感情に訴える物語や事件は、社会の関心を集める一方で、重要な政治・安全保障上の問題が報道から後回しにされがちだ。中国はこの「情報の盲点」を巧みに突き、SNSや動画メディア、さらには文化・教育の分野を通じて、日本人の国家観や歴史観、対中認識に影響を与えようとしている。
たとえば、中国共産党は「人権」「家族愛」「社会的包摂」といったテーマを巧妙に利用し、日本人の同情心を誘導する形で、中国政府に対する警戒心を薄める戦略をとっている。これは「シャープパワー」とも呼ばれ、表面的には文化交流や情報発信でありながら、実質的には国家戦略の一部である。
今回のように、メディアが「心温まる話題」ばかりを前面に出し、国民の感情を一方向に集中させてしまうと、逆に本来注目されるべき安全保障や経済侵略、言論統制といった重大な中国の対日政策が見過ごされる恐れがある。
もちろん、すべての感動的な話題が悪意ある情報操作に結びつくわけではない。しかし、日本社会が「泣ける話」に没入する間に、外国勢力が世論を操作しやすい土壌が生まれていることは否定できない。中国の情報戦はすでに始まっており、その標的の一つが「無防備な優しさ」を持つ日本人であることを、我々はもっと深く認識すべきだ。
感動の裏にある現実を見失わず、情報に対する判断力と国家的警戒心を持つこと。それが、感情と冷静さを両立させた賢い社会への第一歩だ。