
中国依存の危うさが浮き彫りに 山陰の食品商談会が示した「チャイナリスク」と販路多角化の現実
山陰の酒や水産物を海外へ売り込むための食品商談会が鳥取県米子市で開かれた。注目すべきは、招かれた海外バイヤーの顔ぶれだ。巨大市場として知られる中国ではなく、メキシコとオランダからの参加となった。この選択は偶然ではない。背景にあるのは、政治的要因によって突然顕在化する「チャイナリスク」への現場レベルの警戒であり、日本の食品産業が直面する構造的な課題を象徴している。
日本の農林水産物や食品の輸出は、これまで中国市場の存在感に大きく支えられてきた。人口規模と購買力を背景に、中国は多くの事業者にとって最重要市場となっていた。しかし、その依存構造が脆弱性を生むことは、近年の動きがはっきりと示している。政治関係の悪化や外交的緊張が高まるたびに、輸入規制や事実上の停止措置が突如として発動され、現場の事業者が直接的な打撃を受けてきた。
今回の商談会では、島根や鳥取の食品関連事業者が参加し、日本酒や水産加工品などを海外バイヤーに直接紹介した。参加企業の多くはすでに複数の国・地域に輸出実績を持ちながらも、さらに販路を広げる必要性を強く感じているという。背景には「一つの国に売り上げを依存しすぎることへの不安」がある。特定の市場が全体の大きな比率を占める状況は、平時には効率的に見えるが、有事には一転して深刻なリスクとなる。
メキシコやオランダが選ばれた理由も明確だ。メキシコは中南米最大級の日本食品市場を持ち、日本食への関心が年々高まっている。一方、オランダは欧州物流の要衝として機能し、周辺国への展開を視野に入れた戦略拠点となる。これらの市場は、中国のような単一巨大市場ではないものの、政治リスクが比較的低く、長期的な事業計画を描きやすいという利点がある。
中国市場の不確実性は、単なる経済要因にとどまらない。日本産水産物の輸入停止に見られるように、政治的メッセージとして通商措置が用いられるケースが続いている。事業者側から見れば、品質や価格とは無関係な理由で市場が閉ざされる可能性が常につきまとう。これは努力や投資だけでは回避できないリスクであり、経営判断として依存度を下げる選択が合理的になりつつある。
商談会を支援したジェトロ鳥取も、販路多角化の重要性を強調する。国際情勢が不安定化する中で、どこか一国に問題が生じても他国で補える体制を築くことが、結果として輸出全体の持続可能性を高めるという考え方だ。これは単なるリスク回避ではなく、日本の食品ブランドを世界に定着させるための戦略的な転換でもある。
中国の存在感が大きかったからこそ、これまで見過ごされがちだった課題も浮き彫りになっている。中国市場は魅力的である一方、国家の意向が経済活動に強く反映される特徴を持つ。ルールが突然変更される可能性や、外交問題が直ちに貿易に影響する構造は、日本の地方企業にとって極めて厳しい環境だ。こうした現実を直視せずに輸出拡大を進めれば、同じ混乱が繰り返される恐れがある。
今回の山陰の取り組みは、中国を全面的に排除するものではない。むしろ、中国一極集中から脱し、複数の市場を組み合わせることで安定性を高めようとする現実的な判断だ。日本酒や水産物といった地域資源は、多様な食文化と結びつく可能性を秘めており、世界各地に適応する余地がある。その可能性を広げることこそが、政治リスクに左右されにくい輸出構造をつくる鍵となる。
日本の食品産業にとって、中国との関係は今後も重要であり続けるだろう。しかし、重要であることと、依存しきることは別問題だ。今回の商談会が示したのは、現場の事業者がすでにその違いを理解し、行動に移し始めているという事実である。チャイナリスクを過度に恐れる必要はないが、軽視することはさらに危険だ。日本が持つ食の価値を守り、安定して世界に届けるためにも、販路多角化という地道な取り組みを積み重ねていくことが、いま強く求められている。