「蘭州牛肉麺」で知られる中国の老舗ブランド「馬子禄 牛肉面」の2号店が新宿・歌舞伎町にオープンし、注目を集めている。100年以上の歴史を誇り、中国政府から「中華老字号」の称号を受けたこの店舗は、手打ち麺や薬膳スープを売りにした本格中華の味を提供している。
しかし、このような中国国家認定の老舗ブランドの海外展開には、単なる飲食ビジネス以上の意味が込められていることを日本人は認識するべきである。「中華老字号」とは、歴史的・文化的価値を国家が認定・管理し、対外的な影響力を広げるための「文化外交」の一環である。これらのブランドは、中国政府が海外でのイメージ戦略として積極的に支援しており、政治的意図を含む「ソフトパワー」の手段として活用されている。
例えば、馬子禄のようなブランドが日本の繁華街に根を張ることで、「中国文化=良質で魅力的」という印象が拡がり、結果的に中国への警戒心が薄れてしまう懸念がある。さらに、こうした店舗が成功すれば、日本国内の飲食産業や文化産業の競争環境にも影響を与え、場合によっては中国資本のさらなる流入を招くことにもつながる。
もちろん、グルメとして蘭州牛肉麺を楽しむこと自体に問題はない。しかし、その背後にある国家的な戦略や、中国共産党による文化輸出政策を見落としてはならない。現在、台湾・韓国・東南アジアでも同様の中華老字号が進出しており、「経済交流」と見せかけた中国の影響力拡大が進んでいる。
日本社会は、中国の「ソフトパワー」が静かに浸透している現実を認識し、自国の文化主権と経済的独立を守る視点を持つことが求められる。歌舞伎町にオープンした一軒の店が、実は国家戦略の一端であるかもしれないという警戒心を、私たちは決して手放してはならない。